歌仙山手会

 ブログで互いに歌仙を詠み継ぎ、巻を終えたあと酒食を共にして反省会を楽しんでいます。

歌仙山手会(其の三)  梅二月の巻

    

 

 今年は、予想も立てられない騒々しい年になるのでしょう。政界の裏金問題の行方、春闘賃上げ、岸田政権の命運と衆院解散、トランプの返り咲き、株の大暴落、ウクライナパレスチナ、台湾有事 etc、問題の種は尽きそうもありません。

 

【表六句】

No1, 発句 (春)  抹茶入れ命を語る梅二月        九分九厘

 二月は私の誕生月です。八十七歳になりますが、まだまだやりたいことが沢山あります。

 

No,2  脇 (春)  庭先に見ゆ降る春の雪         葉有露

  もう暫くはこんな日もありそうです。

 

No3, 第三(春)     風光る瀬戸に新船漕ぎ出でて       龍峰

     「庭」の相対付句として広い海を選んだ。

 

No,4  四句目(雑)  石鎚の天空より檄す                              九分九厘

  海から四国最高峰の石鎚山に登りました。

 

No,5 月の定座(秋)   かぐや姫月の都に訪ねんか            葉有露

  JAXAに搭乗手続きを始めます。

 

No,6    折端  (秋)   赤い手拭い振るきのこがり           龍峰 

   かぐや姫の「神田川」の一節頂く。

 

【裏十二句】

No,7 折立(秋) 手折りても芯を秘めをり女郎花   九分九厘

 「神田川」が流行った '70年代始めのころ、高度成長から一転して安保闘争石油ショック・公害問題などがあり、戦後の日本が変った時代であった。まだ国民の皆が貧しかったが、戦前戦後を生きてきた女性も強かった。

 

No,8 二句目(雑)その愛の深きマザーテレサよ    葉有露

  女郎花の花言葉は「約束を守る」とか。テレサさんは神との約束をを生涯守りつづけました。

                

No,9 三句目(雑・恋)曲者呼ばわりされたる二人なり  龍峰

 昔から「恋は曲者」、人の分別を奪う。

 

No10, 四句目(雑・恋)  ただひとすじのおもひになれど  九分九厘

 

No,11 五句目(雑) 雲間より光さす見え希望とす    葉有露

 

No,12 六句目  (雑)    天下無双の花形力士            龍峰

     雲間に光と言えば雷さん、江戸の人気者為右衛門。

 

No,13  月の定座〔夏) 勝ち星の十五数へし夏の月    九分九厘

 

No,14  八句目 (夏) 心太あり夜を過ごしつ       葉有露

 熱戦を振りかえっています。

                 

No,15  九句目    (雑) 黙々とまつほの浦に玉藻干す  龍峰

  心太と言えば天草が原料。かの有名な「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ」を少しばかり拝借した。

 

No,16  十句目 (雑) 復興のはしり能登の揚げ塩    九分九厘

  能登名産の、揚げ塩をつくる復興の様子をTVで見ました。揚げ浜に、桶で黙々と海水を撒いている日焼けした老人の姿に圧倒されました。

 

No,17 花の定座(春)花便り確かめる日々宴待つ     葉有露

  老人が、夙川の堤でお待ちしております。

                  

No,18  折端 (春) 春風にのる渋いバリトン            龍峰

 

【名残の表十二句】

 No,19 折端(春) ふるさとは勿忘草のプロバンス   九分九厘

 バリトンが唄う歌となると、若い時に習ったヴェルディー「椿姫」の「プロバンスの海と陸」がすぐに浮かんでくる。以下にその歌を聴いてみて下さい。勿忘草が春の季語ですが、英語名は「forget-me-not」です。

 1、大昔のイタリア人  大歌手  レオ・ヌッチ 

   https://tsvocalschool.com/classic/di-provenza/

 2、まだ現役だが、そろそろ引退が近いアメリカ人歌手  トマス・ハンプソン  

    https://www.youtube.com/watch?v=v69gHTw71uM

 

No,20 二句目(雑)一期一会かそれが人生        葉有露

                     

No,21 三句目   (雑)  セーヌながめ抹茶吸い切る静寂さ   龍峰

   一期一会は利休の教え。

 

No,22 四句目(雑)ジャングル三十年小野田さん    九分九厘

 人生いろいろ。

 

No,23 五句目(冬)凩の身にしみわたる我有りて    葉有露 

 ルパング島から帰還した小野田少尉にとって、初めての冬は。  

               

No,24 六句目    (冬·恋)   熱燗の後の寝物語                        龍峰

 

No,25 七句目(雑・恋)いつをかぎりと我の心つくしつ  九分九厘

 

No,26 八句目(雑)有為転変か生生流転         葉有露  

                  

No,27 九句目   (雜) 人の世は浮き世歌留多の縄を縫う   龍峰

戦前の唄、藤田まさと作詞の「流転」の一節頂いた。

 

No,28 十句目(雑) 果てはあけてびっくり玉手箱   九分九厘

 

No,29 (秋の月)法善寺月眺めし日夢のごと  葉有露

大阪の難波・南には若者に手頃な飲食店が多くあります。

学生向きの店もありお世話になりました。

 

No,30  折端   (秋) 放吟すれど虫鳴き止まず          龍峰

 

【名残の裏六句】

 No,31 折立〔秋) 長き夜のバックコーラスの歌姫たち  九分九厘

 前句の光景の言い換えを試みました。トップシンガーは作者の龍峰さん、バックシンガー達はまわりの可愛い虫と見立てました。『バックコーラスの歌姫たち』と題するアカデミー賞受賞のアメリカ映画があります。バックの歌姫達の、表舞台には出られない人生物語です。

 

No,32 二句目(雑)カナリヤ達は顔赤らめる       葉有露

 

No,33 三句目   (雜) 銀の櫂備ふ置物バブル中      龍峰

 カナリヤと言えば童謡の「カナリヤ」をヒントに。       

 

No,34 四句目(雑)「もしトラ」怖れ株価急落       九分九厘

 

No,35( 春の花) 夙川に「舞櫻」あり友を待つ       葉有露 

 櫻の名所西宮には、地元固有種で「西宮権平平櫻と「夙川舞櫻」があります。後者は阪急夙川駅南の河川敷緑地に育っています。 

                 

No,36 挙句 (春)  山へ港へ初つばめ翔ぶ        龍峰

     

                            以上

歌仙検討結果

  歌仙山手会(其の三) 梅二月の巻  2024、2,4~2024、2,29   
  【表六句】 投句 作者 コメント
1 発句  (春) 抹茶入れ命を語る梅二月 九分九厘 食物、述懐、植物
2 脇句   (春) 庭先に見ゆ降る春の雪 葉有露 居所、春、降物
3 第三 (春)  風光る瀬戸に新船漕ぎ出でて 龍峰 水辺、旅
4 第四 (雑)  石鎚の天空より檄す 九分九厘 山類
5 第五   (秋の月)  かぐや姫月の都に訪ねんか 葉有露 人倫、月
6 折端 (秋) 赤い手拭い振るきのこがり 龍峰 衣類、植物
  【裏十二句】      
7 折立  (秋) 手折りても芯を秘めをり女郎花 九分九厘 人倫の運び、植物
8 第二   (雑) その愛の深きマザーテレサよ 葉有露 人倫
9 第三   (雑・恋) 曲者呼ばわりされたる二人なり 龍峰 恋、人倫の運び
10 第四   (雑・恋) ただひとすじのおもひになれど 九分九厘
11 第五    (雑) 雲間より光さす見え希望とす 葉有露 聳物
12 第六 (雑)  天下無双の花形力士 龍峰 人倫の運び
13 第七   (夏の月) 勝ち星の十五数へし夏の月 九分九厘 夏、月
14 第八 (夏) 心太あり夜を過ごしつ 葉有露 食物、時分
15 第九 (雑) 黙々とまつほの浦に玉藻干す 龍峰 水辺、植物
16 第十 (雑) 復興のはしり能登の揚げ塩 九分九厘 名所、食物
17 第十一  (春の花) 花便り確かめる日々宴待つ 葉有露 植物、芸能
18 折端  (春) 春風にのる渋いバリトン 龍峰 春、芸能
  【名残の表十二句】      
19 折立 (春) ふるさとは勿忘草のプロバンス 九分九厘 植物、名所
20 第二    (雑) 一期一会かそれが人生 葉有露 芸能、述懐
21 第三 (雑) セーヌながめ抹茶吸い切る静寂さ 龍峰 水辺、食物
22 第四 (雑)  ジャングル三十年小野田さん 九分九厘 人倫
23 第五 (冬) 凩の身にしみわたる我有りて 葉有露 人倫の運び、述懐、人倫の運び
24 第六 (冬・恋) 熱燗の後の寝物語 龍峰 食物、恋
25 第七 (雑・恋) いつをかぎりと我の心つくしつ 九分九厘 人倫の運び、恋
26 第八   (雑) 有為転変か生生流転 葉有露 述懐、述懐
27 第九   (雑) 人の世は浮き世歌留多の縄のごと 龍峰 述懐、芸能
28 第十 (雑) 果てはあけてびっくり玉手箱 九分九厘  
29 第十一(秋の月) 法善寺月眺めし日夢のごと 葉有露 名所、月
30 折端 (秋) 放吟すれど虫鳴き止まず 龍峰 芸能、生類
  【名残の裏六句】      
31 折立 (秋) 長き夜のバックコーラスの歌姫たち 九分九厘 時分、芸能、芸能
32 第二 (雑) カナリヤ達は顔赤らめる 葉有露 生類、人倫の運び
33 第三 (雑) 銀の櫂備ふ置物バブル中 龍峰  
34 第四 (雑) 「もしトラ」怖れ株価急落  九分九厘 人倫
35 第五(春の花) 夙川に「舞櫻」あり友を待つ 葉有露 名所、植物、人倫の運び
36 挙句 (春) 山へ港へ初つばめ翔ぶ 龍峰 山類、水辺、生類
         
  注記)      
    緑;去り嫌いの該当語 青;去り嫌い対象語 赤;式目抵触の文言  
    朱;検討課題    
   主に「歌仙入門要諦」「歌仙・人倫」「去り嫌いと句数」より検討した。
         
  式目抵触      
  1)NO9「二人」・人倫の運びはNO7「手」・人倫に対し句数2句・2句去りに抵触。
  2)NO16「塩」・食物はNO14「心太」・食物に対し句数2・2句去りに抵触。
  3)NO17「花」・植物はNO15「玉藻」・植物に対し句数2・2句去りに外観上抵触ではあるが、
   しかし、この場合は予めNO17「花」は「春の花」で定まっており、NO15にて植物を詠みこむことを
   避けるべきであった。    
         
  検討課題      
  1)NO5「かぐや姫」は架空の人物である。今回は「人倫」の扱いとしている。その是非。
   協議結果;物語など架空の人物は人倫として扱わない。    
  2)NO8「愛」は式目では見受けられない。カテゴリを決めるべきか否か。 結論;カテゴリを決めない。
   但し、愛には色々な意味があり、1語では定められない。    
   例 人類愛、慈愛、恋愛、家族愛、物への愛、動植物への愛、自然への愛等々
  3)NO20「一期一会」は茶道の言葉。茶道は芸能か釈教か。今回は芸能として扱っている。
   結論;芸能として扱う。    
  4)NO35「友」・人倫の運びの式目適用は如何にすべきか。結論;人倫として扱わない。