歌仙山手会

 ブログで互いに歌仙を詠み継ぎ、巻を終えたあと酒食を共にして反省会を楽しんでいます。

歌仙山手会(其の一) 東大寺の巻

           

東大寺大仏殿

 神戸の六甲山に馴染の深いメンバーが、山手会と称して連句の勉強を始めました。そろそろ三年近くになろうとしていますが、師匠なしでも漸く歌仙の基本が分かってきたようです。ここで心機一転、Hatena Blog に参入して本格的な歌仙に挑戦することになりました。晩秋の候、歌仙を再スタートするには絶好の時です。メンバーは八十路半ばの俳句愛好者です。

 

【表六句】

1,発句(冬)    青丹によし唐人も居る冬の古寺      葉有露

2,脇 (冬)    時雨来て駆け込む大庇          龍峰

3,第三(秋)    夕焼けの鹿寄せ始むホルンにて     九分九厘

 「鹿寄せ」は秋の季語になっています。冬の風物詩ともいいますが、最近は観光用向けに四季を通じて行っているようです。ホルンはヴェートーベンの「田園」の一節を吹きます。唐人も喜んでいることでしょう。

4,   四句目(秋)   月明かり増し山山寝入る         葉有露

5,五句目(秋〕    峡深き瀬に身をまかす落ち鰻       龍峰

6,折端  (秋)    江戸前に新酒大吟醸          九分九厘

 「江戸前」といえば、今では寿司や天ぷらの素材や調理法を指すことが多いが、もとはといえばウナギに対して使われる言葉であったという。かつての江戸湾はウナギの宝庫。

 

【裏十二句】

7,折立(雑)    隔離棟出でて風あり生を知る       葉有露

  十二日間入院後、退院直後の感想です。   

8,二句目(雑)   ハワイ沖レース参加決意         龍峰

  風と言えば、昔取った杵柄、この際帆にいつも快適な風が吹いているハワイのレースに参加しよう。

9,三句目(雑・恋)  ダイヤモンドに魅せられし乙女いて  九分九厘

  ハワイオアフ島のダイヤモンド・ヘッドに因んで詠みました。

10,四句目(雑)   先の戦い夢幻か              葉有露

11,五句目 (冬)    目をこすりよくよく見れば雪おんな      龍峰

         あれは決して幻ではない。

12,六句目   (雑)    手を取りて溶けて虚しき空       九分九厘

13、七句目(秋の月) 満月を機影行き過ぎ窓を閉め       葉有露

14、八句目(秋)   秋の三井寺母子再会           龍峰

       中秋の名月と言えば、謡曲三井寺」を頂いて。

15、九句目〔秋)   寂滅為楽鐘ぞさやけく響き       九分九厘  

16、十句目(雑)   生きそして死ぬ主と共にいて        葉有露

17、十一句目(春の花) アルプホルン鳴りゆく園は花吹雪      龍峰

         アルプホルンは高山で羊飼いなどの牧童らが互いの連絡のために編み出したとか。

18、十二句目(春)  ドレミの歌に春山淡冶         九分九厘

  前句に「サウンド・オブ・ミュージック」の景が浮かんできました。「春山淡冶にして笑うが如く・・」と続きます。

 恐縮です。「春山淡治」の後半「淡治」の意味をお教えください。(葉有露)

 下記のリンクを開いて下さい。(九分九厘)   

       https://sybrma.sakura.ne.jp/317yamawarau.html

 

【名残の表十二句】

19、折立 (春) 源平の戦船行き春の沖         葉有露

20、二句目(雑)   朝夕の日に輝く螺髪          龍峰

          螺髪は大仏の頭のぶつぶつ

21、三句目(雑・恋) 富士煙ゆくへも知れぬ我が思ひ   九分九厘

  平重衡による南都焼打ちにより大仏焼失。東大寺の再建は鎌倉仏師の出番。西行勧進を各地で行いました。「本歌取り」ならぬ「本歌盗り」になってしまいました。

22、四句目(雑・恋) かの人去りて今は懐かし     葉有露    

23、五句目 (冬)    サントノレ通り闊歩すマフラーよ           龍峰

24、六句目(雑)  ブティック物色財布は細る     九分九厘

25、七句目(雑)  かって銀座とはいえヒルズ雲の上   葉有露

26、八句目 (雑)   道風目覚めたり書道とや           龍峰

        銀座と言えば柳、道風は柳に飛び付くカエルを見て、はたと思いついた。(龍峰)

27、九句目(雑) 浄瑠璃の小屋に吹きいる鳴門風   九分九厘

  浄瑠璃小野道風青柳硯」に付けます。淡路の南に常設の浄瑠璃小屋があります。

28、十句目(雑) 旨酒積みし船遠ざかる      葉有露

29、(秋の月)  志士たちの議論諤々夜半の月   龍峰

30、折端〔秋)  紅葉且つ散る人気も無くて    九分九厘 

 

【名残の裏六句】

31、折立(秋) 錦木に見送られおり歌仙旅      葉有露

32、二句目 (雑) 出で湯久々伸びし髭剃る        龍峰

33、三句目(雑)さてとそろそろ決戦か巌流島    九分九厘

34、四句目(雑)仕事の後の冷酒うれし        葉有露

35、花の定座(春)花の香の風のさそひに旅支度     龍峰

  古今集十三紀友則の歌

   「花の香を風のたよりにたぐへてぞ鶯誘ふしるべにはやる」

  をベースに詠んだ。            

36、挙句(春) のどけき春の日の静ごころ       九分九厘

 

                   以上

 

  歌仙山手会(其の一) 東大寺の巻  2023、11,14~2023,12,11   
  【表六句】 投句 作者 コメント  
1 発句  (冬) 青丹によし唐人も居る冬の古寺  葉有露 人倫の運び、冬、釈教  
2 脇句   (冬) 時雨来て駆け込む大庇  龍峰 降物、居所  
3 第三 (秋) 夕焼けの鹿寄せ始むホルンにて 九分九厘 時分、生類、芸能  
4 第四 (秋の月) 月明かり増し山山寝入る 葉有露 天象、山類  
5 第五   (秋)  峡深き瀬に身をまかす落ち鰻 龍峰 山類、水辺、人倫の運び、異生類  
6 折端 (秋) 江戸前に新酒大吟醸 九分九厘 食物、食物、食物  
  【裏十二句】        
7 折立  (雑) 隔離棟出でて風あり生を知る 葉有露 居所、水辺  
8 第二   (雑) ハワイ沖レース参加決意 龍峰 名所  
9 第三   (雑・恋) ダイヤモンドに魅せられし乙女いて 九分九厘 人倫の運び  
10 第四   (雑) 先の戦い夢幻か 葉有露 神祇  
11 第五    (冬) 目をこすりよくよく見れば雪をんな 龍峰 人倫の運び  
12 第六 (雑) 手を取りて溶けて虚しき空  九分九厘 人倫の運び、述懐  
13 第七   (秋の月) 満月を機影行き過ぎ窓を閉め 葉有露 天象、旅、居所  
14 第八 (秋) 秋の三井寺母子再会 龍峰 秋、釈教・名所、人倫  
15 第九 (秋) 寂滅為楽鐘ぞさやけく響き 九分九厘 釈教、釈教  
16 第十 (雑) 生きそして死ぬ主と共にいて 葉有露 釈教、神祇  
17 第十一  (春の花) アルプホルン鳴りゆく園は花吹雪 龍峰 芸能、植物  
18 折端  (春) ドレミの歌に春山淡冶 九分九厘 芸能、山類  
  【名残の表十二句】        
19 折立 (春) 源平の戦船行き春の沖 葉有露 人倫、(旅)、春、水辺  
20 第二    (雑) 朝夕の日に輝く螺髪 龍峰 時分、天象、釈教  
21 第三 (雑・恋) 富士煙ゆくへも知れぬ我が思ひ 九分九厘 山類・名所、人倫、恋  
22 第四 (雑・恋)  かの人去りて今は懐かし 葉有露 人倫の運び、恋  
23 第五 (冬) サントノレ通り闊歩すマフラーよ 龍峰 名所、衣類  
24 第六 (雑) ブティック物色財布は細る 九分九厘    
25 第七 (雑)  かって銀座とはいえヒルズ雲の上 葉有露 名所  
26 第八   (雑) 道風目覚めたり書道とや 龍峰 人倫  
27 第九   (雑) 浄瑠璃の小屋に吹き入る鳴門風 九分九厘 芸能、居所、名所  
28 第十 (雑) 旨酒積みし船遠ざかる 葉有露 食物、旅  
29 第十一(秋の月) 志士たちの議論諤々夜半の月 龍峰 人倫の運び、時分、月  
30 折端 (秋) 紅葉且つ散る人気も無くて  九分九厘 植物  
  【名残の裏六句】        
31 折立 (秋) 錦木に見送られおり歌仙旅 葉有露 植物、芸能、旅  
32 第二 (雑) 出で湯久々伸びし髭剃る 龍峰 人倫の運び  
33 第三 (雑) さてとそろそろ決戦か巌流島 九分九厘 名所  
34 第四 (雑) 仕事の後の冷酒うれし 葉有露 食物  
35 第五(春の花) 花の香の風のさそひに旅支度  龍峰 植物、旅  
36 挙句 (春) のどけき春の日の静ごころ 九分九厘 春、天象、述懐  
           
  注記)        
    緑;去り嫌いの該当語 青;去り嫌い対象語 赤;式目抵触の文言    
    朱;検討課題      
   主に「歌仙入門要諦」「歌仙・人倫」「去り嫌いと句数」より検討した。  
           
  式目抵触        
  1)NO5[鰻」はNO3「鹿」に対し「異生類」2句去りに抵触    
  2)NO23「サントノーレ通り」はNO21[富士」に対し「名所」2句去りに抵触  
  3)NO25[銀座」はNO23[サントノーレ通り」に対し「名所」2句去りに抵触  
  4)NO27[鳴門」はのNO25「銀座」に対し「名所」2句去りに抵触    
           
  検討課題        
  1)今回の歌仙では季節は秋春冬で夏は詠まれていない。夏を2句程度詠むべきだった。  
  2)「月の定座」はNO4,NO13,NO29と3回とも秋となった。    
    歌仙の基本定座ルールでは発句が冬の場合はNO13は夏の月となっている。その方がよかったかも  
    知れない。尚、ルールではNO13は、発句が春秋冬の場合は夏、発句が夏の場合は冬となっている。  
  3)NO1「青によし」は「奈良」「国内・くぬち」にかかる枕詞    
   「青によし」の語源は奈良であおに(岩緑青)が採掘されたからとも、平城京の華々しい朱色(に・丹色)に、木々の緑(あお、青色)が映えているからとも。 
   そのことから枕詞になったとか。      
    尚、本句では「青によし」は後続の句の全体・(奈良)にかかる。       
       
  4)NO10「幻」、NO11「雪をんな」のカテゴリは? 「幻」は夢と同じ扱いとする。「雪をんな」
    は普通名詞とする。      
  5)繰り返し出現する言葉      
    酒;NO6新酒、大吟醸  NO28旨酒  NO34冷酒